「安い」は、ただの価格ではない――大阪の街角で続く「おいなはれ」の商い
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目に見えるのは価格だけだ。しかし大阪の激安自販機「おいなはれ」を支えているのは、商品の選定、在庫管理、補充、そして小さな改善の積み重ねである。撮影当時26歳だった二代目・松本集大さんの仕事から、安さを続ける条件を考える。
安さは、毎日の判断から生まれる

創業初期には10円商品がニュースになった。ただし、これは過去の事例であり、現在の商品がすべて10円という意味ではない。
具体的な仕入れルートは非公開だが、安く買うだけでは価格は守れない。売れなければ在庫になり、移動や補充が増えればコストも上がる。大阪市内ではコーヒー、郊外や工場の多い地域では水やお茶が動きやすいという。何を仕入れ、どこへ置くか。安さは、街を読み続けた結果である。
売れた本数を確かめ、周辺の自販機や通る人を見て、次の商品を選ぶ。数字だけでは捉えにくい地域ごとの感覚が、同じ場所を回り続けることで蓄積されていく。
見えない労働と、小さな改善

無人に見える自販機にも、倉庫での商品準備、積み込み、売上確認、釣り銭補充、現金回収が必要だ。多い日には、松本さんが一人で約300ケースを扱うこともある。
購入にかかるのは数秒でも、その瞬間を成立させる仕事は一日中続いている。低価格は、値札には表れない移動と確認の繰り返しにも支えられている。
商品表示も変わった。以前の厚いプラスチック製カードは、価格上昇を受けて、紙に印刷しラミネートする方法へ移行した。必要な分だけ自社で作る手仕事である。一方、売上記録など、負担を減らせる部分にはデジタル化を考える。大切なのは、現場の知識を残しながら、続けにくい工程を変えることだ。
経験を、次の世代が使える仕組みへ

事業は、父が計画していたコインランドリーに、両替機代わりの自販機を置いたことから始まった。父の経験と直感で広がった仕事を受け継ぐため、松本さんは各自販機に管理番号を付け、場所と機械を対応させた。頭の中にあった情報を、共有できる仕組みに変えたのである。
継承とは、過去をそのまま繰り返すことではない。守るべき知恵と、変えるべき方法を見極める作業でもある。
最盛期に600台以上あった自販機は、撮影時点で約370台。広げるだけでなく、管理できる範囲へ整えることも、事業を守る選択だ。
松本さんが残したいのは、子どもにも手が届く、安くて選ぶ楽しさのある自販機だ。安さを守ることと、仕事を持続できる形へ変えることは切り離せない。
見慣れた一台を、人の判断と労働が集まる小さな商いとして見直す。そこには、価格だけでは測れない大阪の日常がある。
Flow of Japanについて
Flow of Japanは、ReDimから生まれたドキュメンタリープロジェクトです。日本各地の仕事、文化、日常、そしてそれらを支える人に焦点を当て、表面からは見えにくい日本の姿を世界へ届けます。